【書評】”1億総疲弊社会”にならないためには?現代日本の働き方の問題を提起する本!『職場の問題地図』(沢渡あまね著)
今回紹介する本は『職場の問題地図』(沢渡あまね著)です。
近年、「働き方」について、いろいろな個所で議論が取り上げられております。また、政府も”1億総活躍社会の実現”のために「働き方改革の実現」ということで「働き方改革実現会議」を立ち上げ、検討を重ねております。
そのような状況の中、働き方に関する一冊の本が注目を集めております。それが今回紹介する沢渡あまねさんの著書『職場の問題地図』です。
では、『職場の問題地図』とは、どのような本なのでしょうか?
本書に書かれている内容のうち、「なぜ本書が生まれたのか?」、そして「現代の職場で特に残業の要因となっていると思っている箇所」について、以下にピックアップしながら書評を書きました。
Contents
本書はなぜ生まれたのか?
本書の冒頭には「本書がなぜ生まれたのか?」が書かれております。
具体的には、「制度」「プロセス」「個人スキル」「場」の4つの観点で、あなたの職場の問題点を洗い出し、できるところから良くしていきましょう。
いま多くの企業で取り組んでいるのは「制度」と「個人スキル」の強化のみ。そして、その2つが個人に依存している状態です。これを組織の問題としてとらえて、解決するにはどうしたらいいか?
この本は、その答えをあなたと一緒に探すために生まれました。
本書では、私が過去に勤務した4つの会社(いずれも日系大手企業)と30以上の日本の企業の現場で見聞きしました「あるある」事業を網羅し、「職場の問題地図」を描きました。「制度」「プロセス」「個人スキル」「場」の4つの問題点を浮き彫りにし、「なぜ職場が残業だらけのままなのか?」「ほんとうのワークライフバランスを実現するためには何をしたらいいのか?」をとことんなぜなぜ分析します。
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P10~P12)
この記述から、著者は「制度」「プロセス」「個人スキル」「場」という4つの視点から問題をとらえていることが分かります。
そして、これらの4つの視点から「どこに問題があるのか?」という分析を論理的に展開し、わかりやすく書かれているのが本書の特徴となっております。
5つの要素で仕事をとらえる
そして、本書で「どこに問題があり、どうすればよいのか?」を捉える上で、ベースとなっているのが以下の「仕事をとらえる5つの要素」です。
そもそも、「仕事をする」とはどういうことでしょうか?
ひと言で言うと、「インプットを成果物に変える」取り組みです。そのためには、「何のために、だれのためにその成果物を生み出すのか?」を意識しなければなりません。また、多くの仕事は自分ひとりでは完結できません。すなわち、関係者を意識する必要があります。
まとめると、仕事は5つの要素で成り立っています。仕事を受けるとき(あなたが上司ならば依頼する時)は、この5つを相手と意識合わせしましょう。
①目的
その仕事は何のために、だれのために行うのか?
②インプット
その仕事を進め、成果物を生むためにどんな情報・材料・ツール・スキルなどが必要か?
③成果物
生み出すべき完成物あるいは完了状態は?期限は?提出先は?
④関係者
巻き込むべき関係者・協力者は?インプットはだれ(どこ)から入手すべき?成果物はだれのため?
⑤効率
その仕事のスピードは?生産量は?コストは?人員は?歩留まり(不良率)は?
(中略)
この5つのいずれかに問題があるとどうなるか?答えは「仕事がうまく回らない」「職場に問題がある」状態です。
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P34~P37)
この記述を見ると、「プロセス思考」でモノゴトをとらえている著者らしい視点だなと思います。
そして、これらの視点を用いながら、「残業の要因」や「いつまでたっても終わらない仕事を生み出す要因」を分析しております。
無駄な会議を取り巻く5つのヤツら
僕が”仕事が非効率となっている最大の要因”となっているのが「無駄な会議が多い」というものです。
なぜ無駄かというと
- ”アリバイ作りに必要”と思われる関係者が、全員、会議に呼ばれる
- 会議の目的が明確になっていないため、ゴールが不明
- ”発言力の大きい人”の意見に進行が左右され、進行の流れから脱線することがよくある
- 「何が決まって、何が課題として残ったのか?」「次回はいつ、どのような目的で行うのか?」が不明瞭のまま終わってしまう
といったことがよく発生するため、結果的に「時間だけ費やしたけど、よくわからないまま終わってしまった」ということが多発するからです。
そんな会議の原因として、著者は以下の5つをあげています。
①会議のやり方がなっていない
②上司の業務設計・管理スキルが低い
③部下の伝えるスキルが低い
④対面至上主義
⑤「時間は無限だ」という上司の幻想
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P73~P79)
「会議を経ないとモノゴトが決まらない」と思っている上司が多いためか、対面至上主義の慣行のためか……会議に取られる時間は馬鹿になりません。
会議をスムーズに進めるために、著者は本書で以下の4点を提案しております。
①その会議、なんのためにやるの?~まず目的(種類)とアウトプットを確認しよう~
②私、出席する必要あるんでしたっけ?~出席者選びも慎重に~
③議事録をとりやすい発言を意識しよう
④会議の3本締め「決定事項」「宿題事項」「次回予告」
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P82~P88)
仕事の所要時間が見積もれない
仕事の見積もりを行うことは重要なことと認識している方は多いと思います。しかし、見積もるにあたり、インプットの情報が少ないためか、いざ見積もりをするときは「経験と野生のカン頼み」となってしまいます。
①経験と感覚で仕事を進める(野生のカン頼み)
②業務プロセスがない
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P96~P100)
所要時間を見積もれないと、どうなるのか?結果は以下の通りとなってしまいます。
①業務量が多い
②スピードが遅い
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P105~P108)
上記の状況となるとどうなるか?結果は「残業で対応」となってしまいます。「いつまでも終わらない仕事」の誕生です。
「何を」「どこまでやればいいのか」が曖昧
残業を生み出す大きな要因の一つとして「”何をどこまでやればいいのか”が曖昧」があります。よくあるのは、「どこまでやればいいかはよくわからないけど、期限だけは決まっている」というパターン!いざ、フタを開けてみると、「とてもじゃないが、期限までには間に合いそうもない!」という状況です。
では、なぜそのような「残念な職場」が生まれるのでしょうか?本書では、その原因として以下の4つをあげております。
①他部署やお客さんとの関係がなあなあ
②上司と部下との関係がなあなあ
③部門のミッションや役割が曖昧
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P154~P158)
では、そのような状況を回避させるためには、どうすればいいのか?本書では以下のような提案を行っております。
残念な職場を見てみると・・・・・・業務設計・管理がまったくなっていない!
①自部署のミッションと役割をきちんと理解する
②①をチームレベルに落とし込み、目標設定する
③ミッション・役割・目標に照らし合わせて、業務ルールや優先度、すなわち「何を」「どこまでやればいいのか」を設計する
④それを、部下や関係者に浸透させる
この一連のマネジメントができていないと、仕事が場当たり的になり、いつまでたっても残業が減らない、休めない職場であり続けます。
業務プロセスのマネジメントは上司の責任です。まずは、自部署のミッションと役割を確認し、「どの仕事を、どこまでがんばるべきか?」「どんなレベル(品質・スピードなど)を提供すべきか?」を設計していきましょう。
(沢渡あまね著『職場の問題地図』より P159~P160)
最後に
「連日の深夜残業」など、電通の問題の影響もあり、最近は特に職場の問題がクローズアップされております。いや、残業をはじめとした日本人の働き方の問題はかなり前からいろいろと話題にはなっていたものの、有効な対策が打てないまま、今日まで現状が続いてきました。
確かに、各企業も残業を減らすために「ノー残業デー」を設けるなど、制度面での対策は打たれてきました。しかし、これらの対策は実際には”現場任せ”となっているのが実情であり、現場は最終的には個人のスキルに依存するのみであるのが実際のところだと思います。「なぜ残業続きとなるのか?」といった根本的な問題分析に至るのはほとんどありません。また、現場もこれらの問題に本格的にメスを入れることは部門としても時間も費用も”莫大なコスト”がかかるし、「そんな時間がない!仕事がたまっているのに、そんなことを検討するなら、少しでも仕事を進めたい!」という思いもあるため、なかなか残業続きの状況にメスを入れることは行ってきませんでした。
そんな中、「残業だらけの休めない働き方」の原因に本格的にメスを入れたのが本書『職場の問題地図』です。
本書を読むと分かりますが、本書は「目的、インプット、成果物、関係者、効率」という5つの視点から、「なぜ現場は”残業だらけの休めない職場”となっているのか?」を分析しております。このあたりの分析手法は”プロセス思考”を得意とする著者らしい分析だなと思いました。
もちろん、原因については職場において違うとは思いますが、本書に書かれている職場の問題は、概ね、「日本の多くの職場で発生している問題でもあり、多くの原因」に相当するのではないかと思います。現代の日本の職場を見ていると、「現在の状況が続くと、精神論で踏ん張ってきてもいつかは限界を迎え、ダムの決壊を招くのではないか?」と思えてなりません。
これらの問題が発生している原因に薄々気づいていても、なかなか目を向け、解決に向けた努力をすることに腰が重い企業が多いのですが、業務改善コンサルタントとして数々の現場を見て回り、現場が抱えている状況は深刻であることに対して警告を発するためにも著者は本書を執筆したのではないかと思うのです。
一朝一夕で解決できる問題ではありませんが、日本が一億総疲弊社会とならないためにも、本書が働き方を見直す契機の一つになってくれればと思う次第です。
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