【書評】問題を忘れたときに解決策はやってくる!?アイデアを生み出す先人たちの知恵のエッセンス本!『インクルージョン思考』(石田章洋著)
非常に面白い本を読みました!
問題が発生するときというのは、複数の問題が絡み合って発生することが多いものです。
それゆえに、表面的に見える問題を一つ対処療法的に対応しても解決しないことが多いのです。
しかし、そんな複数の問題が一気に解決できるアイデアを生み出す思考法があればいいとは思いませんか?
今回ご紹介する『インクルージョン思考』は、「複数の問題を包括的に解決するアイデアを生み出す思考法」について書かれた本です。
著者は人気長寿番組『世界ふしぎ発見』(TBSテレビ系列)を手掛ける人気放送作家の石田章洋さん。石田さんも予算と深夜枠と教育番組という3つの制約の中で「予算は無いが、面白い番組を作れ!」という命題の企画を生み出さなければなりませんでした。そんな状況の中で生まれた番組が1992年に放送開始の「英会話体操 ZUIIKIN’ENGLISH」でした。
この番組は知る人ぞ知る人気番組であり、2003年にCNNで紹介されたことをきっかけに国際的にも注目され、YouTubeでも500万PVのアクセスを誇ります。
先に述べた制約の中でそんな人気番組を生み出した石田さんが述べると『インクルージョン思考』はどのような思考法でしょうか?
以下に本書のポイントを述べたいと思います。
インクルージョン思考とは何か?
本書のタイトルとなっている「インクルージョン思考」とはどんな思考法でしょうか?
本書の最初に以下のように述べております。
インクルージョン思考とは、「複数の問題を一気に解決する」アイデア、つまり「インクルーシブなアイデア」をつくるための思考法のことです。
(中略)
まるで、ルービックキューブで赤の面をそろえたあと、青の面をそろえようとしたら、先にそろえていた赤の面がぐちゃぐちゃになってしまうような問題。それらを一気に解決するだけでなく、予期せぬ効果まで生み出してしまう、それが「インクルーシブなアイデア」のチカラです。
(石田章洋著『インクルージョン思考』P4~P6)
本書で述べているルービックキューブを想像すると分かりやすいです。ご存じの通り、ルービックキューブは6面の色をそろえるゲーム。一面をそろえることはできても、そろえた面以外の色はそろっていないことが多々あります。これは一つの問題を解決できても複数の問題を解決できていない例えとしてわかりやすい例です。
実際に複数の問題が絡み合った中で解決した例というのはいくらでもあります。本書で紹介しているドンキーコングもその一つです。
当時、任天堂は、ヒットするアーケードゲームが、なかなか開発できないでいました。そんなとき宮本さんは、社長だった山内博さんから、きわめてざっくり「もっと売れるゲームをつくってくれ」と命じられました。
そこで考えたのが、やがてマリオと呼ばれる髭を蓄えたオーバーオール姿のキャラクターが、落ちてくる樽を避けながら、アミダくじのような梯子を登っていくゲームです。
それこそが、のちにファミコンソフトでも大ヒットすることになる『ドンキーコング』の原形でした。
ただ、開発当初のゲームは、あまりにも難しくて、誰にもクリアできないものでした。しかも、ただひたすら転がってくる樽を避けながら、我慢に我慢を重ね、梯子を登っていく、苦行のようなゲームになってしまったそうです。
でも、テレビゲームの草創期である当時の技術には限界があり、それ以上は工夫のしようなない……。
そんなとき、事態を打開するため、宮本さんが考えたのがゲームキャラクターに”ジャンプさせる”アイデアでした。
(中略)たったひとつの「ジャンプ」というアイデアが、いろいろな問題を解決しただけでなく、さまざま付加価値もゲームに与えました。それが「ドンキーコング」を大ヒットに導いたのです。
(石田章洋著『インクルージョン思考』P23~P25)
インクルーシブなアイデアへの4つのステップ
では、「インクルーシブなアイデア」とはどのように生み出すのでしょうか?
本書では以下の4つのステップを紹介しております。
①高次の目的を決めて旅立つ
②目的に従って材料を集める
③異なる分野の材料をつなげる
④手放して「ひらめき」とともに帰ってくる
(石田章洋著『インクルージョン思考』P73~P74)
私たちも、「どうやって解決すればいいのだろうか?」といろいろな情報を集め、ヒントを探すが、その時は解決できないことが多い。しかし、問題のことを忘れると、ふと解決のためのアイデアが頭に浮かぶことってありますよね?「アハ!体験」と呼ばれる体験をしたことは多いと思います。振り返ると、これも上記の4つのステップを経たときに生まれることが多いのです。
実はこのステップは、本書でも述べているように1940年に発表されたジェームス・W・ヤングの名著『アイデアのつくり方』や、ドイツの哲学者であるヘルマン・ヘルムホルツ、そして著名な哲学者であるルネ・デカルトが提唱するアプローチと本質は同じなのです。
最近では『U理論』を提唱したC・オットー・シャーマーが同様のアプローチを述べております。
そう考えると、複数の問題を包括的に解決するアイデアを生み出すアプローチというのは、人間がDNAとして古から受け継がれてきたものかもしれませんね?
インクルージョン思考を磨く7つの習慣
では、インクルージョン思考を磨くためにはどうすればいいのでしょうか?
本書では、以下の「7つの習慣」によってインクルージョン思考が磨かれると述べております。
習慣1:好奇心を持ち続けてストックを増やす
習慣2:必ず「日付の入った」メモを取ろう
習慣3:インプット雑食系を心がける
習慣4:デスク周りは「綺麗に」散らかそう
習慣5:ぼーとする時間を「意識的に」つくる
習慣6:毎日、誰かに笑顔にしよう!
習慣7:自らを世界の一部だと考える
(石田章洋著『インクルージョン思考』P183~P199)
それぞれの理由は本書で確認をしていただければと思います。
しかし、本当に大事なことは「アイデアを出し続ける」ということ!本書で紹介されている宮崎駿監督も不遇の時代があったとのこと。不遇の時代を乗り切り、世界的な名作となるアニメーションをつくることにできるようになったのも、「アイデアを出し続けた」からこそです。
じつは宮崎監督にも、不遇の時代がありました。劇場映画監督デビュー作となった『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)でメガホンを取って以来、企画がほとんど採用してもらえなくなったのです。
この映画は、アニメ『ルパン三世』の劇場版の第2作で、のちに多くの人の支持を得て、高い評価を受けることになります。ですが、興行成績がシリーズ第1作を下回ったため、内容の素晴らしさにもかかわらず、商業映画としては「失敗作」の烙印を押されてしまったのです。
その影響で、宮崎監督が手がけるはずだった3つの企画が見送られることになりました。なんと、それが『となりのトトロ』『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』の3本だったのです。
では、そんな不遇の時代を、どのように乗り切ったのか?
(中略)不遇の時代、宮崎監督はどんな小さい仕事でも、楽しみながらアイデアを出し続けていました。
その努力は、5年後に実ります。1984年、映画監督としては2作目となる『風の谷のナウシカ』の大ヒットにつながったのです。
(石田章洋著『インクルージョン思考』P180~P182)
最後に
下記のリンクに書かれた評価にもある通り、本書『インクルージョン思考』は評判の良い書籍です。
※落語の「なぞかけ」が秀逸な問題解決方法だった件 — 尾藤 克之
こちらの記事では本書で紹介されている「なぞかけ」の点に着目し、「お題を多角的な視点で眺め、柔軟に結びつけることで、異なる分野のものが、結びつく感覚が理解できるでしょう。アイデアは「多角的な視点」と「柔軟な思考」によって異分野のものを関連づけることで生まれます。」と述べていることからもわかるように、本書に対して高い評価をしております。
本書に関する多くの書評を見ても、高い評価を与えている記事が多いです。
では、なぜ本書に対して高い評価を与えているのでしょうか?
僕は、「構成がしっかりしている」、「読みやすく、本書の内容がスッと入ってくる」、そして「”なぞかけ”の例のように、一見、テーマとは結びつかないような事例を用いながら”ああ!なるほど!”と思うような仕掛けが満載な点」の本だからこそ、多くの方が高い評価を与えているのではないかと思います。
そんな本書の中で僕が最も共感したのが本書の最後に書かれている以下の言葉です。
アイデアとは「世の中を変えられる、世界で最も平和な武器」である。
(石田章洋著『インクルージョン思考』P203)
これは、元電通のクリエイティブ・ディレクターで、大阪成蹊大学の秋草孝教授の言葉です。この言葉を見たとき、「ああ!なるほど!」と思いました。
例えば、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスはグラミン銀行を開業し、無担保で少額の資金を貸し出す「マイクロ・クレジット」を生み出しました。マイクロ・クレジットは「貧困対策の新手法」として注目を集め、第三世界を中心に広がりを見せております。これは、「アイデアが世の中を変えることができる最も平和的な武器」の一例ではないかと思うのです。
本書を通じて、「アイデアが持つチカラ、そして素晴らしさ」を改めて認識したように思います。しかし、本書でも述べているように、その手法は難しいものではありません。「問題を忘れたときにフッと解決策が浮かんでくる」というのは、誰もが体験していることだと思います。そして、その手法は、多くの先人たちが述べている人間が持つ本能に近いものかもしれません。
そんな体験を改めて体系的に述べている本書の読書体験は、「課題を包括的に解決に導くアイデアを生み出すヒントを再認識する機会につながる」なるのではないかと思います。
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