【書評】金融サービスは大きく変わる?注目の”FinTech”が分かる本!『FinTech入門』(辻庸介/瀧俊雄著)
最近、「FinTech」という言葉をよく耳にします。
「FinTech」とは「金融(Finance)」と「技術(Technology)」を掛け合わせた造語です。その名の通り、金融分野におけるITの活用を意味します。
近年、ITを活用したサービスの開発は目覚ましいものがあり、空いている部屋を旅行者に貸し出すことができるサービスであるAirbnbなど、今までにはない新たなサービスが登場しております。
そんなITを活用した新しいサービスが金融の世界にも生まれております。特に一時期話題になったビットコインなどはその代表的なものでしょう。
しかし、「”FinTech”という言葉、最近よく聞くようになったものの、どのようなことを表しているのかがよく分からない!」というのが多くの方の実感ではないでしょうか?
今回ご紹介する『FinTech入門』は、そんな方のために、
- FinTechとは何か?
- FinTechにはどのようなサービスがあるのか?
- FinTechによって、どのように未来が変わるのか?
を分かりやすく解説した本です。
著者は株式会社マネーフォワード代表取締役社長の辻庸介さんと同社取締役の瀧俊雄さん。FinTechの一旦を担う企業の代表が、海外や日本の事例を用いながら、本書でFinTechを解説しております。
Contents
FinTechが注目されるワケ!
FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、金融と技術の融合のことを言います。金融とテクノロジーの融合が進むことで、金融業界の構造変換を引き起こしながら、新たな金融サービスが次々に生まれ、ユーザーはこれまでにないメリットを享受できるようになります。
(辻庸介/瀧俊雄著『FinTech入門』P12)
IT利用の進展により、規制に風穴をあけるようなサービスが登場しております。それは規制の多い金融の世界においても例外ではありません。
今まで、金融の世界ではサービスを提供するためのシステムの開発や運用に莫大なコストがかかっておりました。キャッシュディスペンサーやATMの運用を想像してもらうと、どれだけ莫大なコストがかかっているのかがおわかりでしょう。
しかし、近年のITの世界では
- 技術の開発コストの低下(オープンソースの進化、クラウド化、API化)
- 開発したサービスを普及させるコストの低下(スマートフォンの普及など)
- サービスを使うユーザーの目が肥えてきて、サービスに対する期待が高くなった
など、大きな変化をもたらしました。特に開発や普及のコストの低下により、新たなアイデアを持つスタートアップ企業が参入しやすい状況となっております。
「金融は変化が遅い」「金融は特別」というイメージがあると思いますが、ビットコインの例でもわかる通り、技術の進展により、構造変化をもたらすかもしれない。そんな状況が金融の世界でも生まれるかもしれないという点で、今、「FinTech」という言葉とともに、その変化に注目を集めております。
FinTechで変わる金融サービス!
FinTechにより、国内、海外問わず、新しいサービスが生まれております。
本書では、以下の10分野において、事例とともに新たなサービスが紹介されております。
- 個人資産管理(PFM)
- 企業会計、経営・業務支援
- 資産運用
- 融資、ソーシャルレンディング
- クラウドファンディング
- 決済
- 保険
- 不動産
- ブロックチェーン、分散型台帳、仮想通貨
- セキュリティー
個人資産管理(PFM)における「MoneyForward」や「Zaim」、企業会計における「MFクラウド会計」や「Freee」、クラウドファンディングにおける「ReadyFor?」や「Makuake」、決済における「PayPal」や「Square」、保険における「ライフネット生命」など、新しいサービスがどんどん普及しております。
では、FinTechはどのような変化をもたらしているのでしょうか?
例えば、「MoneyForward」や「Zaim」といったサービスは、銀行口座やクレジットカードとの連動により、入出金の状況を簡単に一元管理することができます。今までは通帳記帳をした上でそれを帳簿に書き写す必要があったので、その手間を考えると、格段に楽になったはずです。
また、クラウドファンディングはビジョンを実現するための資金集めの手段として広く認知されるようになりました。今までは「銀行からお金を借りる」「ベンチャーファンドに投資してもらう」などの限られた手段しかなく、しかもハードルが高いものでした。しかし、クラウドファンディングの登場により、ビジョンに賛同する方から幅広く出資してもらえる環境が整い、資金集めのハードルも低くなってきております。
このように、今までにない金融サービスの登場により、私たちを取り巻く環境や生活を変えつつあるのです。
そんなサービスを本書では詳しく紹介しております。
世界的に注目の技術「ブロックチェーン」
FinTechを語る上で外すことができない注目の技術があります。それは「ブロックチェーン」です。この「ブロックチェーン」、ビットコインにも採用されている技術であり、「現在の金融インフラを一新する大きな変革をもたらす技術」と言われております。
では、ブロックチェーンとはどのような技術でしょうか?それについては以下の記事が参考になります。
※CENXNOTES『仮想通貨の根幹であるブロックチェーン・テクノロジーとは』
なお、この技術を採用しているビットコインは、運用が始まった2008年以降、一度も改ざんされておりません。しかも、システムダウンを経験していないのです。このことからも、ブロックチェーンが注目される理由が分かると思います。
FinTechで金融サービスの未来が変わる?
FinTechによって、金融サービスはどのように変わるのでしょうか?本書の第3部では「FinTechがもたらす未来」と題して、その点について述べております。
その中でも特に注目しているのが「ビットコインの進展」です。「データの安全性」「取引コストの低下」という特性から、インターネット上での決済については貨幣や紙幣に置き換わってブロックチェーンの技術を取り入れた電子マネーによる決済に置き換わるかもしれません。本書によると、現に北欧諸国では紙幣や貨幣の製造をやめ、電子マネーに置き換わる動きが生まれてきております。
また、現在注目を集めている技術として「人口知能(AI)」があります。人口知能といえば、Google社が開発した「AlphaGo」が韓国のプロ棋士に勝利したニュースが話題となりました。kのように、人工知能の技術開発は急速に進展しております。
本書の事例によると、資産運用で人口知能の技術を活用したロボアドバイザーの事例が紹介されておりますが、このように人口知能の活用によるポートフォリオの組み立てや金融アドバイスなど、今までになかったサービスが生まれるかもしれません。
最後に
話題の「FinTech」の本格的な解説書ということで、わくわくしながら読んでまいりましたが、読んでみて、改めて技術の進展とはすごいなあと思いました。特に、本書を通じて、FinTechの動きがよくわかりました。
また、日本においてもかつてはTRONやimodeなど、世界を席巻するかもしれない技術がありましたが、普及がなかなかうまくいかず、取って変わる技術が他国で生まれ、後塵を拝する苦い思いをしてきた経験をしてまいりました。そのため、政府や金融機関もFinTechの動きに遅れまいと力を入れております。本書のあとがきに紹介されている「FINOVATORS」という一般社団法人の設立、そして大手町には「FINOLABO(フィノラボ)」というFinTechベンチャーの発信基地も生まれました。このようにFinTechの動きが日本国内においても本格的に動き出しております。
とはいえ、FinTechという言葉は、まだまだバズワードの域を脱しておりません。「注目を集めているけど実態がよく分からない」というのが実情でしょう。そのため、FinTechに関する本格的な入門書の発刊が待ち望んでいた方も多かったのではないでしょうか?本書によるFinTechの解説は、現在の海外および国内に関する動きを把握するのみならず、今後の動向を考える上でも非常に役に立つものです。
さて、2010年以降にインターネットを介した今までにない様々なサービスが生まれてきております。それは金融サービスにおいても同じこと。特にFinTechに関する研究が進み、「ブロックチェーン」や「人口知能」、「ビッグデータの活用」などの技術が応用されることで、規制の多い金融分野においても今までにないサービスが生まれることを期待したいです。
関連書籍
- 【書評】「読書とは何か?」を読者にその意味を問いかける本!『読書という荒野』(見城徹著) - 2018年7月8日
- 【書評】仕事は本来楽しいもの!それを実現する具体的な4つのステップ!『組織にいながら、自由に働く。』(仲山進也著) - 2018年6月25日
- 【書評】なぜモヤモヤと感じるのか?自分との対話のキッカケになる本!『モヤモヤとするあの人』(宮崎智之著) - 2018年6月17日