【書評】「SIビジネスはどこに行くのか?」……SIerの退職を機に読んでみたSIビジネス再生の戦略!『システムインテグレーション再生の戦略』(斎藤昌義/後藤晃著)
2016年3月31日、この日は僕にとって、一つの節目の日となりました。
今日まで勤めていた大手システムインテグレーター(SIer)を退職したからです。前職も含めて20年ほどシステムインテグレーターで勤務してまいりましたが、この日を持って、SIビジネスとは離れることになります。
システムインテグレーターを退職するにあたり、読んだ本が今回紹介する『システムインテグレーション再生の戦略』です。なぜなら、システムインテグレーションというビジネスは、環境の変化も重なって、まさに今、大きな転換点を迎えているからです。システムインテグレーションに長く携わってきた者として、現在の変化をどのように捉えるべきか?それを考えるキッカケになるのではないか?と思い、本書を手にとりました。
以下に、本書のポイントを記載しながら書評を書いてまいります。
Contents
「システムインテグレーション」の変遷
そもそも「システムインテグレーション」とは?
企業の情報システムの企画、設計、開発、構築、導入、保守、運用といった一連の工程を一貫で、または一部を請け負うサービスです。そして、システムインテグレーションサービスを行う企業をシステムインテグレータ(SIer:System Integrator)と呼ばれております。
かつてシステムインテグレーションは「成長産業」だった!
システムインテグレーションは、銀行の3次オンシステムなどのコンピューターシステムの大型化、一般企業におけるコンピューター利用の拡大に伴い、「大型化、複雑化するコンピューターシステムの構築・運用を一手に引き受けることができる企業の待望」から生まれ、成長してきた産業です。
その後、メインフレームからオフコンやミニコンへのダウンサイジング、クライアントサーバー型への移行などの時代の流れにうまく対応しながら成長してまいりました。
そんな成長産業の中心にあったシステムインテグレーターは、かつては花形産業とも言われました。特に2000年頃には日本IBM、富士通、NECといったシステムインテグレーターが就職したい企業のトップ10に入るほどの人気の企業だったのです。
転換点はリーマンショック!
しかし、成長産業だった「システムインテグレーション」も、世界中を巻き込んだ”ある出来事”によって、大きな転換を迎えます。
その”ある出来事”とは、「リーマンショック」です。
リーマンショック前までは金融機関や公共分野を中心に大型投資がいくつも行われ、大型需要とともにシステムインテグレーションも大きく成長したのです。
しかし、リーマンショックを機に大型投資は凍結。それに伴い、SI産業も売上が低下します。
SI産業を取り巻く環境の変化について、本書では以下のように述べております。
ところが、リーマンショックの影響で、2009年からSI産業の売上高は下降線をたどります。2011年に底を打ち、回復へと転じていますが、これは金融機関、公共分野を中心に大型投資が抑制されたことへの反動による一時的嵩上げとみることができます。また、直近の需要の回復は、みずほ銀行のシステム統合や郵貯グループのシステム刷新といった少数の巨大開発プロジェクトに支えられております。それでも、2011年意向の成長率は数パーセントであり、物価上昇率を勘案するとほとんど成長していないと言わざるをえません。
(中略)
大手SI事業者から「過去最高益」という見出しのニュースが出てきてはいますが、成長率でみると数%の成長しかありません。これは、みずほ銀行の統合や、郵政の大規模システム刷新、マイナンバー制など大型案件の特需が集中したことによるものです。しかし、外資系クラウドから特需以外の需要を奪われており、将来この特需がなくなった時、SI事業者の売上は大きく落ち込むのではないかと懸念されます。
(斎藤昌義/後藤晃著『システムインテグレーション再生の戦略』P13~P15)
特にアマゾンウェブサービス(AWS)、Salesforce.com、Microsoft Azureなどのクラウドサービス上に自社システムを構築し、利用する企業を増えております。
これらの変化は、確実にSIビジネスに大きな影響を及ぼしております。
システムインテグレーションが直面する8つの現実!
先に述べた「クラウドサービス上に自社システムを構築する」といった例に代表されるように、システムインテグレーションビジネスは今、転換点を迎えております。
では、今、システムインテグレーションはどんな課題に直面しているのでしょうか?
本書では「システムインテグレーションが直面する8つの現実」として、以下の8つの現実を示しております。
- 工数の喪失
- ユーザー企業の期待の変化
- 労働力の喪失
- 求められるスキルと現実の不整合
- シチズンインテグレーターとの競合
- グローバル競争との対峙
- 競争原理の変化
- 異業種との競合
(斎藤昌義/後藤晃著『システムインテグレーション再生の戦略』P39)
システムインテグレーターのビジネスモデルは「システム構築に必要な工数を提供して対価を得る」というビジネスモデルでした。そのため、システム開発の規模が大きければ大きくなるほど売上が上がるという構造でした。
しかし、今、環境の変化に伴い、従来のビジネスが成り立たなくなってきております。
これらの現実を捉え、新たなビジネスモデルを構築する時が、今、システムインテグレーターには求められております。
ポストSIビジネスの戦略とは?
3つの戦略と9つのシナリオ!
本書では、ポストSIビジネスを「アプリケーション/インフラ」と「専門特化/スピード」の2軸で整理し、提示しております。
それが、以下の「3つの戦略と9つのシナリオ」です。
- アプリケーションプロフェッショナル戦略
- 特化型SaaS/PaaS
- ビジネスサービス
- 業種・業務特化インテグレーション
- ビジネス同期化戦略
- 内製化支援
- シチズンデベロッパー支援
- アジャイル型住宅開発
- クラウドプロフェッショナル戦略
- クラウドコンサルテーション
- クラウドインフラ構築
- クラウド運用管理
(斎藤昌義/後藤晃著『システムインテグレーション再生の戦略』P81)
ポストSI戦略の5つの特徴!
3つの戦略と9つのシナリオから、本書では、ポストSI戦略の特徴を述べております。
- サービス視点
- 高度な専門性
- クラウドネイティブ
- ビジネススケール
- マーケティング
(斎藤昌義/後藤晃著『システムインテグレーション再生の戦略』P155~P157)
ジョイソー、ウイングアーク1st、ウルフなど、本書ではポストSI戦略に取り組んでいる企業の事例をコラムとして紹介しております。これらの事例のキーワードは「工数以外でいかに付加価値を顧客に提供するのか?」ということです。ポストSIビジネスを考える上で、参考になるはずです。
最後に
僕もシステムインテグレーターで長年仕事に従事してまいりました。
そのときの経験から、SIビジネスが成長した理由を考えたときに、「企業がオンプレミス(自社でコンピューターを保有し運営すること)で構築するシステムへの巨大投資が成長を支えていた」と思うのです。このときのキーワードとしてあがるのは「オンプレミス」という言葉です。オンプレミス型のシステムを構築する必要があったからこそシステム構築に大型投資が必要となり、運用に莫大な費用を必要となります。それがシステムインテグレーターの成長の源泉となったと思うのです。
しかし、昨今では、企業のシステム投資の方向がオンプレミスからクラウドへ、特にパブリッククラウドによるシステム構築に投資が行われるようになったように思えます。クラウドシステムのセキュリティレベルが向上し、そして、システムのサービスインまでの期間の短縮化に伴いクラウドシステムを利用するケースが増えてまいりました。企業のシステム投資の方向が変わってきたことが、今までのSIビジネスを転換しなければならないことも、本書を読んで、より強く感じたことでした。
今、転換期を迎えているシステムインテグレーションビジネスについて、今後、どのような戦略を描き、実行するか?新たな収益源をどこに求めるのか?早晩、これがシステムインテグレーターが直面する大きな課題となるはずです。
そんなときに、今までのビジネスを、そして最近のトレンドや企業のニーズを詳細に分析し、事例を踏まえながら書かれた本書の内容は、システムインテグレーターにとっては大いに役立つはずです。
最後に、冒頭に僕もシステムインテグレーターを卒業し、この4月から本書の9つの戦略であげられた「クラウドコンサルテーション」の企業で働きます。そこでの仕事の進め方や求められる内容は、今までシステムインテグレーターで行ってきたやり方とは大きく異なるものです。そんな仕事の進め方や文化の違いを乗り越える努力もシステムインテグレーターには求められます。そんな変化の中で、システムインテグレーターはどのように対応していくのか?企業のシステムを支える産業だけに、今後のシステムインテグレーターのアクションに注目していきます。
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